美容師開業のコツ

美容室の開業に必要なものとは?開業までの流れと手続きのポイント

2024年09月14日

2024年10月28日 更新

美容室(ヘアサロン)の開業は、役所や専門機関への届け出、書類などでの手続きが必要になります。
店舗を構えるため、自宅内に開業するケースでも内外装を整え、事業を継続するための資金も準備しなければなりません。

この記事では、美容室の開業にあたってフリーランス(個人事業主)・法人化のいずれにも共通するポイントを中心に紹介します。事業に関する計画段階から開業後の集客までチェックしていきます。

開業に必要な手続きや資金の調達方法、スタッフを雇い入れる際に注意したいポイントも詳しくみていきましょう。

美容室を開業する流れ

美容室を開業する流れは以下のとおりです。

【美容室を開業する流れ】

  • 事業計画書を作成する
  • 物件を選ぶ
  • 資金を調達する
  • 内装工事を行う
  • スタッフを採用する
  • 美容器具・備品などを発注する
  • 集客を行う

開業の第一段階として、事業計画書を作成します。次に、物件選びや資金調達を行って、開業のベースとなる部分を整えます。

さらに内装工事やスタッフ採用、美容機器と備品を揃えて、店舗を完成に近づけながら集客を行います。

事業計画書を作成する

事業計画書とは、銀行などの金融機関から融資を受ける場合に必要な計画書です。

日本政策金融公庫のホームページなどから書式をダウンロード・印刷し、実際に提供するサービス・販売する商品・売上目標・資金の調達方法といった項目を書き込んでいきます。

事業計画書が定まれば、コンセプトやメニュー、価格設定といった細かい部分まで考えられるようになります。

計画が定まっていなければ漠然とした経営になってしまい、金融機関からも信用を得られにくく融資が受けられないといったデメリットにつながるため、実際の事業を想定して計画書に落とし込んでいきましょう。

関連記事:美容室開業の基本的な流れと開業時に求められる各種届出

コンセプトを決める

コンセプトは漠然としたものではなく、立地や対象とする客層まで明確に設定することが大切です。

【美容室のコンセプト決めの例】

いつ営業時間(定休日や休暇、年末年始の営業)
どこで店舗の場所(住所)・競合店の状況や立地・
誰に年齢層・性別・職業
何をメニューの内容・サービスの内容・仕入れる商品
なぜなぜ美容室を始めるのか(動機)
どのように外装・内装・提供方法・店内のレイアウト

5W1Hをベースに、店舗の住所や営業時間、対象とする客層のイメージを決めていきます。

競合店との差別化や集客・店舗のPRにも影響するため、コンセプトをよく考えて早めにイメージを文字に起こすことが大切です。

メニューと価格設定を決める

コンセプトの段階で大まかに決めていたメニューを深掘りし、さらに具体的な内容に落とし込みます。

同じカットでもカットのみ・学生カット・部分カット・デザインカットといった種類の違いがあり、カット&パーマなど、複数の施術を組み合わせたメニューも追加します。

メニュー内容や価格設定は既存の店舗を参考に決めることができますが、利用者の目線で考えることが大切です。

価格が高すぎると失客するおそれが高くなりますが、安くしすぎると経営状態に影響するため、出店地域の料金相場や近隣の競合店のメニュー・料金設定をリサーチして決定しましょう。

初期投資を選定する

開業費として、初期投資(イニシャルコスト)を計算します。店舗を構えるためにかかる費用は次のとおりです。

【初期投資にかかる費用】

  • 物件取得費(テナント費用)
  • 内外装工事費
  • 設備機器費
  • 備品費
  • 材料費・消耗品費
  • 広告宣伝費
  • 求人費
  • 運転資金

テナントに入居する際は、物件取得費として保証金や礼金がかかります。初期投資費用の中でボリュームが大きなものは、物件取得費(テナント費用)・内外装工事費・設備機器費の3点です。

売上と利益の計画を立てる

経営者の人数を考慮し、1日あたりの売上と材料費や備品費、賃料といった支出から利益を計算しましょう。

利益を考えるうえで重要なものは借り入れた初期費用の返済計画です。金融機関などから借り入れたお金は計画的に返済しなければならないため、月々の支出に組み込む必要があります。

売上や利益に関する相談は税理士に相談することもできます。融資の種類によっては返済が猶予されるケースもあるため、融資先の担当者に確認してください。

物件を選ぶ

コンセプトに沿って、開業に適した物件を探します。「駅から徒歩3分以内」など、希望条件に合わせて不動産会社や店舗アドバイザーなどに相談することもできます。

内装や設備を取り除いた「スケルトン物件」と、設備・什器・備品が付属した状態の「居抜き物件」から選べます。

開業する美容室のコンセプトや資金問題、空きテナントの状況にもよるため、店づくりにかけるこだわりや開店までの期間を考慮して選択しましょう。

居抜き物件は設備や備品の大幅な変更はせず、初期費用を抑えた状態で開業できるメリットがあります。一方、スケルトン物件は内外装、設備のすべてを理想通りにレイアウトできます。

資金を調達する

事業計画書やコンセプトが決まっているため、金融機関に申請して資金を調達しましょう。

提出した計画書の内容をもとに審査が行われ、オーナーの信用度なども含めて融資を受けられるかが判断されます。

国・地方自治体の補助金や支援金を活用する際も、申請や手続きを経て審査を受けなくてはなりません。審査に通れば期日にまとまった資金が振り込まれ、開業資金に活用できます。

関連記事:美容室は資金ゼロでも開業できる?開業費用の目安と資金調達方法

内装工事を行う

資金の準備ができたら、内装工事や外装工事を行います。外装を大きく変更する必要がなければ、内装工事のみ業者に依頼しましょう。

業者の選定は、はじめから1社に決めずいくつか見積もりをとって比較することをおすすめします。

美容室の内装実績が豊富な会社を含め、プランや料金体系、サービス内容も確認し、予算や開店日、イメージを伝えて現地調査を受け、工事内容と日程を決定します。

スタッフを採用する

内装工事が終了したら、スタッフを雇用する準備に入ります。すでにスタッフが揃っている(美容師複数人での開業や声かけを済ませている場合など)ときは、このプロセスは不要です。

スタッフの探し方としては、人材紹介会社に依頼してマッチングをかける方法と、自分自身で探す場合は新聞・雑誌・広報誌・アルバイト雑誌・フリーペーパーといった媒体に出稿するか、理美容の専門学校やWeb上で募集をかける方法が選べます。

美容器具・備品などを発注する

美容器具や備品は、施術や業務に使うものを中心に購入します。ドライヤー・鏡・パソコン(タブレット)・待合用のイスやテーブルは、多くの美容室が導入していますが、他にも施術で使用するものは漏れなく必要な数を揃えましょう。

美容ディーラーと契約する

美容ディーラーとは、美容室などの店舗と直接契約し、美容商材の発注・仕入れ・納品を請け負っている業者です。注文後すぐに商品を届けてくれるため、繁忙期でも物品の仕入れや補充に手間がかかりません。

美容機器を調達する

シャンプー台・パーマ用加湿器・デジタルパーマ機・ヘッドバス・炭酸発生装置といった美容機器を揃えます。開業日に間に合うように購入またはレンタルを依頼しましょう。

集客を行う

開業で重視したいもののひとつが集客です。チラシやフリーペーパーへの掲載、ヘアサロンや美容室を取り上げているポータルサイトへの掲載で、店舗の特徴を知ってもらうことが大切です。

店舗のホームページやSNSが用意できる場合は、こまめな発信や発信内容の工夫で集客につなげられます。

美容室を開業する際に必要な手続き

美容室を開業する際に必要な手続きとして、保健所・消防署・税務署・労務関連への手続きがあります。それぞれの手続き内容をみていきましょう。

保健所への手続き

保健所は、資格をもった美容師が在籍し、美容を行うための施設を管轄しています。法律や条例に基づいて衛生管理上の基準を適用すると決められているため、開設前に美容室の図面を持参し、相談を行います。

開設の申請では「開設届」を書いて提出します。構造設備・スタッフの名簿を別紙でそれぞれ提出し、承認を受けてください。

参考元:東京都保健医療局「美容所」

消防署への手続き

美容室には消火器や火災報知器といった消防設備が設置されており、設備が基準を満たしているか確認するために、消防署に届け出を行わなければなりません。

建物の一部を店舗として使う場合は「防火対象物使用開始届出書」を、さらに内外装の工事に入る7日前までに「防火対象物工事等計画届出書」を提出します。収容人数や延べ床面積によっては管理者の選任も必要になります。

参考元:東京消防庁「防火対象物使用開始届出書」

税務署への手続き

税の納付先である税務署には、「開業届」を提出して事業を開始したことを申告します。所得税の控除が受けられる「青色申告」を申請する場合は、青色申告承認申請書も提出しましょう。

スタッフに給与を支払う事業者は「個人事業の開業・廃業等届出書」もあわせて提出します。

参考元:国税庁「所得税の青色申告承認手続」

労務関連の手続き

事業をスタートしてからスタッフを雇用する場合は、社会保険に加入しなければなりません。労働保険の手続きとして、労災保険を労働基準監督署に、雇用保険(条件を満たした場合)の申請を地域のハローワークに行います。

参考元:厚生労働省「労働保険事務組合制度」

美容室開業にかかる費用

美容室の開業には、物件取得費や内外装費、設備や備品を揃えるために費用がかかります。

ここからは、開業費の相場と費用の項目を確認していきましょう。

開業費の相場

美容室を開業するためにかかる費用は、フリーランス・法人を問わず700〜1,200万円程度です。

1人のオーナーが開業するケースでは、オーナー自身がすべての費用を負担しますが、2人や3人の複数人で開業するケースの場合は、費用負担を分担することができます。

ただし、複数人が在籍する店舗は坪数が1人オーナーの店舗よりも広くなるため、お店の規模によっては負担が大きくなる点に注意が必要です。

開業に必要な費用項目

開業時の初期投資でボリュームが大きくなる項目は、物件取得費(テナント費用)・内外装工事費・設備機器費または運転資金です。

開業資金が1,000万円の美容室を例に、費用項目と相場の目安をみていきましょう。

【開業費の相場の一例】

物件取得費(テナント費用)100万円前後
内外装工事費40万円前後/坪
設備機器費100万円〜
備品費30万円〜
材料費・消耗品費開業資金の5%程度
広告宣伝費開業資金の5%前後
広告宣伝費開業資金の5%前後
求人費募集方法によって異なる
運転資金150〜200万円程度

※上記は一例です。

一般的に、物件取得費とは空いたスペースを借りるために支払う礼金や手数料などの費用を指します。内訳は次のとおりです。

【物件取得費の内訳と相場の一例】

保証金賃料10ヶ月分
前家賃賃料1~2ヶ月分
礼金賃料1~2ヶ月分
仲介手数料賃料1ヶ月分
保証会社手数料賃料1ヶ月分

※上記は一例です。

保証金は賃貸物件の敷金と似ており、テナントがある建物の所有者や管理会社に担保として預けるお金です。美容室の事業が終了する際に、原状回復のために充てられます。

前家賃とは、美容室をオープンするまでにかかる家賃です。空家賃とも呼ばれます。一般的に賃料の1〜2ヶ月分がかかります。

不動産会社に支払う仲介手数料、保証会社に支払う手数料は、テナントを借りる際に必要な費用です。持ち家の一室で開業するケースでは、物件取得費は発生しません。

物件取得費は賃料がベースになるため、目安となる金額は店舗により異なります。賃料が10万円なら保証金は100万円、前家賃は10〜20万円が目安になります。

開業費のうち、内外装工事費は10坪の美容室の場合400万円(税別)になります。求人費が一切かからないパターンでも、一例で紹介した費用を足し合わせると700万円以上がかかる計算になります。

紹介例はあくまでも目安です。実際の費用には幅があり、居抜き物件のように内外装費が抑えられる物件は開業費が抑えられます。

開業費の相場を左右するのは、店舗の立地条件・店舗の広さ(坪数)・内外装費・雇用するスタッフの人数・メニュー内容・メニュー単価・設備機器の価格などです。

コストをカットしすぎるとサービスの質が低下したり、スタッフに負担がかかったりするおそれもあるため、費用をかける部分とかけない部分を切り分けて考えたいところです。

開業資金の調達方法

開業資金の調達方法は、自己資金と融資の2種類に分けられます。自己資金を活用した事業経営が理想的ですが、自己資金だけで大部分をまかなえない場合は融資を受けることになります。

自己資金

自己資金とは、手元にある現金(贈与されたお金も含む)や、口座に入っている預金、返済義務のない補助金や入金が見込まれる退職金のことです。

金融機関から借り入れたお金は返済しなければならないため、自己資金には含まれません。

「返済の必要がなく、使い道が自由に選べる事業用のお金」を自己資金と呼びます。法人成りをしている場合は、資本金が自己資金に該当します。自己資金を開業資金に組み入れるときは、全体の4分の1程度の出資が目安です。

開業資金における自己資金の割合は、自己資本比率と呼ばれます。全体の4分の1は25%なので、自己資本比率25%ということになります。

資金が潤沢にあれば自己資金ですべてをまかなえます、余裕がない状態であれば全体の4分の1を目標に貯蓄し、残りの4分の3は融資を検討しましょう。

銀行や日本政策金融公庫からの融資

2つめの調達方法は、銀行や日本政策金融公庫といった機関を利用した融資です。融資とは、事業者が金融機関から金銭を貸してもらう「事業用の借り入れ」を指します。

誰もが融資を受けられるわけではなく、融資を行う側は返済能力や事業として成り立つかどうかを審査します。そのため、事業計画書を作成し、返済能力があることを示さなければなりません。

このほか、国や地方自治体の補助金・助成金を活用する際にも、事業計画書が審査の判断材料となります。

スタッフを雇う際の注意点

スタッフを雇い入れる際は、雇用に関する手続きを忘れずに行いましょう。美容室が法人か否か、雇用するスタッフがどのような雇用形態を希望しているかによって対応が異なります。

必要な手続きを行う

美容室を法人化すると、スタッフを「社員」として雇うことができます。法人化によって社会的な信用度が高まり、会社としての責任のもとで労働環境を整備しやすくなる一方、オーナーへの負担が大きくなる点がデメリットです。

しかし法人化では、さまざまな働き方での採用が可能になります。正社員・契約社員・派遣社員としてフルタイムで雇用できるほか、アルバイト・パート採用や業務委託というかたちでの採用も可能です。

法人化のためには社用の印鑑や定款の作成、資本金の支払いと法務局への登記申請が必要になります。個人事業主として事業を営む以外には、会社を設立する方法も選べます。

会社組織のタイプは以下の4通りです。

【4つの会社の種類】

株式会社株式を発行し資金を調達、事業を営む会社
合同会社株式を発行せず、利益を自由に分配し事業を営む会社
合資会社「有限責任社員」と「無限責任社員」1名ずつで事業を営む会社
合名会社無限責任社員のみで構成される会社

※有限会社は2006年に廃止され、現在は特例の対象となっている既存の有限会社のみが存続しています。

合名会社のように、個人事業主と同義の社員が会社を成しているケースもありますが、その場合はオーナーが個人事業主として事業を営み、同じく個人事業主のスタッフに業務委託をして雇い入れる形態も選べます。

スタッフの心のケアを怠らない

他店からスタッフを引き抜くときには、退職をしてもらうためスタッフに対して責任ある対応を心掛けましょう。

オープニングスタッフとして集まってくれた人材には、働きがいややりがいだけではなく、働きやすさや精神的なケアも重要になります。

お互いに悩みを聞き合い、相談しやすい雰囲気づくりと、スタッフ間での情報共有・連携のほか、時間外労働が常態化しないように勤怠管理を明確にしましょう。

会計や店内の清掃といった施術以外の業務も多く発生するため、デジタルツールを駆使して効率的に業務を進められる体制づくりも意識してください。

美容室の開業を成功させるためのポイント

美容室の開業を成功させるためには、経理業務や税に関する工夫が重要です。税理士のサポート・マーケティング戦略・会計ソフトやキャッシュレス決済の導入を検討しましょう。

①経理業務は税理士のサポートを受ける

独立して事業を営む事業者は、税理士と顧問契約を結ぶことができます。税理士の力が必要になったタイミングで相談することもできますが、1年、2年と継続して税務状況をみてもらうには顧問契約が適しています。

税理士は会計や税のプロフェッショナルであり、専門的なサポートが許されています。税理士に業務を依頼しなければ、オーナーは経理業務をすべて負担しなければなりません。

記帳・決算書や確定申告書の作成・税金対策・経営に関するアドバイスも受けられるため、本来の美容師業務に専念するためにも、税理士との顧問契約がおすすめです。

②マーケティング戦略を綿密に練る

マーケティングとは、美容室の経営を続けるために行うさまざまな活動です。

競合店の調査・広報・宣伝・リピート率向上のための接客やサービス・プロモーション・商品開発といったあらゆる活動がマーケティングに含まれます。

美容室の経営では、他店との差別化が重要になります。料金を安く抑える、キャンペーンを展開するといった方策はどの店舗も行っており、リピート率向上を目指すには他の戦略も含めなくてはなりません。

オーナーやスタッフ自身で戦略を練りながら試行錯誤していく方法が一般的ですが、広告会社の担当者やコンサルティング会社、マーケターのサポートも活用してみてください。

③会計ソフトやキャッシュレス決済を導入する

美容室の業務は、施術以外にも経理や顧客管理などが日常的に発生します。

すべての業務をこなすには人手や時間がかかりますが、会計ソフトや顧客管理システムを導入すれば、ネット予約の自動受け付けと顧客ごとの利用状況や売上の集計が行えます。

「POSレジ」と呼ばれる多機能なシステムも導入できます。POSレジは日本語で「販売時点情報管理(Point of sale:POSレジ)」と呼ばれるシステムで、顧客との金銭のやり取りを記録し、集計します。

キャッシュレス決済への対応も顧客満足度を高める方策のひとつです。電子マネーにも対応しているPOSレジとあわせて導入を検討してみてください。

美容室の開業にかかる費用と流れをチェック

今回は、美容室を開業する流れと開業にかかる費用の内訳、手続きについて紹介しました。

事業計画書と資金計画を確定させれば、資金の使い道や店舗の運営計画も定まりやすくなります。オープンまでの流れを順番に押さえつつ、開業までに各種書類や資金、スタッフの募集方法を検討しておきましょう。

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