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美容室を始める前に理解しておきたい開業届の必要性と書き方
2024年09月27日
2024年11月19日 更新
「美容室のオープンに開業届は必要?」 「開業届ってどうやって書けばよいの?」などの疑問を抱いていませんか。詳細がわからず困っている方は多いでしょう。
開業届は、新たに事業を始めるときに求められる書類で、美容室を始めるときも提出を求められます。
ここでは、開業届の概要、書き方、提出期限などを紹介するとともに、開業届を提出するメリット、デメリットを解説しています。以下の情報を参考にすれば、その必要性などを理解できるはずです。開業届でお困りの方は参考にしてください。
開業届とは
開業届の正式名称は「個人事業の開業・廃業等の届出書」です。国税庁は、開業届を次のように説明しています。
新たに事業を開始したとき、事業用の事務所・事業所を新設、増設、移転、廃止したとき又は事業を廃止したときの手続です。
個人事業で美容室を開業する場合(フリーランスとして活動する場合も同様)は、納税地を管轄する税務署長へ開業届の提出が必要です。この書類を提出することで、税務署に個人事業を開始したことを申告します。開業届の主な入手方法は次の2つです。
【入手方法】
- 国税庁の公式サイトからダウンロード
- 税務署の窓口で取得
開業届の書き方、提出期限は、この後の「開業届の書き方」で詳しく解説しています。
ちなみに、個人事業を開業する場合は、所管の都道府県税事務所へ事業開始(廃止)等申告書(東京都の名称です。名称は都道府県ごとに定められています)も提出しなければなりません。
提出期限は都道府県で異なり、東京都の提出期限は、事業開始の日から15日以内です。開業届と事業開始(廃止)等申告書には次の違いがあります。
【開業届と事業開始(廃止)等申告書の違い】
- 開業届:所得税(国税)に関する書類
- 事業開始(廃止)等申告書:個人事業税(地方税)に関する書類
美容室を開業する際は、両書類を忘れずに提出することが大切です。
出典:東京都主税局「事業を始めたとき・廃止したとき」
開業届を提出するメリット
開業届の提出には、いくつかのメリットがあります。主なメリットは次のとおりです。
メリット①節税効果
開業届を提出することで、一定の節税効果を期待できます。どのような節税効果を期待できるのでしょうか。
青色申告による特別控除を受けることができる
開業届を提出すると、確定申告で青色申告を行えるようになります。確定申告は、1月1日~12月31日までに生じた所得と所得に対する所得税額などを算出する手続きです。確定申告の申告方法は、青色申告と白色申告にわかれます。白色申告は単式簿記を用いる簡単な申告方法、青色申告は主に複式簿記を用いるやや複雑な申告方法といえるでしょう。
青色申告は、所定の要件を満たすことで青色申告特別控除を受けられます。控除額は、要件により10万円、55万円、65万円です。節税効果の大きな申告方法といえるでしょう。ちなみに、白色申告は青色申告特別控除を受けられません。
ただし、青色申告を希望する場合は、事前申請を済ませて承認を受ける必要があります。具体的には、開業届と所得税の青色申告承認申請書を、納税地を所轄する税務署長へ提出しなければなりません。つまり、青色申告の申請には開業届の提出が必要です。提出期限は、青色申告を希望する年の3月15日まで(1月16日以降に事業を開始した場合は事業開始の日から2カ月以内)です。
出典:国税庁「No.2072 青色申告特別控除」
出典:国税庁「A1-8 所得税の青色申告承認申請手続」
青色事業専従者給与を経費計上できる
青色申告が承認されて一定の要件を満たすと、青色事業専従者給与の特例が適用されます。青色事業専従者給与の特例適用は、一定の要件のもと事業者が生計を一にしている配偶者、その他親族へ支払った給与を必要経費として算入できる特例です。特例の適用には、納税地を所轄する税務署長へ「青色事業専従者給与に関する届出書」を提出していることが求められます。青色事業専従者は次の要件を満たす人です。
【要件】
- 青色申告者と生計を一にする配偶者、その他親族であること
- その年の12月31日時点で15歳以上であること
- その年の6カ月を超える期間にわたり事業に専従していること
給与の額は、労務の対価として相当と認められる金額でなければなりません。また、青色事業専従者給与に関する届出書に記載した方法で支払われていること、記載されている金額内で支払われていることも求められます。
白色申告も事業専従者控除の特例を利用できますが、控除できる金額は制限されています。控除額は、次のいずれか低い金額です。
【事業専従者控除の控除額】
- 事業主の配偶者は86万円、配偶者以外は50万円
- 控除前の事業所得などの金額を「専従者の数+1」で割った金額
出典:国税庁「No.2075 青色事業専従者給与と事業専従者控除」
つまり、白色申告は実際に支払った金額を全て必要経費にできるわけではありません。開業届を提出するメリットは大きいといえるでしょう。
少額減価償却資産を経費計上できる
青色申告者は、少額減価償却資産の特例も適用できます。少額減価償却資産は、個人事業主や中小企業が30万円未満の減価償却資産を取得した際に、年300万円を上限としてかかった費用を即時償却できる特例です。この特例を活用することで、その年の利益を少なくして節税できます。適用期限は、2025年度末までです(2024年6月時点)。
ここでいう減価償却資産は、時間の経過とともに価値が減少する資産です。具体的には、10万円以上で取得した器具備品、機械装置などを指します。通常、これらは複数年にまたがり費用を経費計上します。経費計上する期間は、減価償却資産により決まっています(法定耐用年数)。ちなみに、理容又は美容機器の法定耐用年数は5年、洗濯業、理容業、美容業又は浴場業用設備の法定耐用年数は13年です。これらの資産の取得にかかった費用を、一括で計上できる点も開業届を提出するメリットといえるでしょう。
出典:国税庁「減価償却のあらまし」
出典:e-GOV法令検索「昭和四十年大蔵省令第十五号 減価償却資産の耐用年数等に関する省令」
メリット②黒字の所得との損益通算ができる
青色申告者は、純損失の繰越控除を適用できます。純損失の繰越控除は、事業などで生じた赤字を翌年以降の3年間に繰り越せる制度です。繰り越した赤字は、翌年以降の所得(黒字)から控除できます。
たとえば、美容室開業初年度が45万円の赤字、開業2年目が80万円の黒字だったとします。純損失の繰越控除を適用すると赤字を翌年以降に繰り越せるため、開業2年目は80万円に対してではなく35万円に対して税金が課されます(80万円-45万円)。美容室を開業する方にとっては、メリットの大きな制度といえるでしょう。
ちなみに、純損失は損失と利益を相殺(=損益通算)しても控除しきれなかった金額です。損益通算できる損失は、事業所得、不動産所得、譲渡所得、山林所得に限られます。
メリット③小規模企業共済の退職金制度を利用できる
小規模企業共済に加入できる点もメリットです。事業を始めたばかりで確定申告書がない個人事業主、共同経営者は、加入にあたり開業届(控え)の提出を求められます。小規模企業共済は、個人事業主などを対象とする積立式の退職金制度です。国の機関である独立行政法人中小企業基盤整備機構が運営しています。掛金は、全額が小規模企業共済等掛金控除の対象です。また、契約者は掛金の範囲内で事業資金の貸し付けも利用できます。
出典:共済サポートナビ「小規模企業共済 制度のしおり」
メリット④経営セーフティ共済を利用できる
開業届を提出してから1年以上経過すると、必要書類を提出するだけで経営セーフティ共済へ加入できるようになります。経営セーフティ共済は、取引先の倒産に起因する中小企業の連鎖倒産、経営難を防ぐ共済です。取引先が倒産したときに、無担保・無保証人で8,000万円を上限として納付済み掛金の最高10倍まで借入できます。
掛金を必要経費に算入できる点もポイントです。また、所定の要件を満たすと、解約時に解約手当金を受け取れます。事業の安定につながる共済といえるでしょう。
出典:経営セーフティ共済とは | 独立行政法人 中小企業基盤整備機構
メリット⑤事業用の銀行口座を作ることができる
開業届を提出すると、屋号で事業用の銀行口座を開設できます。たとえば、美容室の名前で開設するなどが考えられます。屋号で銀行口座を開設する主なメリットは、取引先やお客様に安心感を与えられることです。口座の名義が利用している美容室の名前であれば、不信感を抱くことなく取引できます。
反対に、個人名であれば「取引先を間違えているのでは?」などの不安を抱かせてしまう恐れがあります。銀行口座の信頼性を高められる点も開業届を提出するメリットです。
関連記事:美容室開業資金のため融資を受けるための流れと審査通過のポイント
開業届を提出するデメリット
開業届の提出にはデメリットもあります。気をつけたいポイントは以下の通りです。
デメリット①失業保険を受けられなくなる
開業届を提出するタイミングによっては、失業保険(基本手当)を受給できない恐れがあります。失業の状態にあることが受給要件となっているためです。厚生労働省は、失業の状態を以下のように説明しています。
ハローワークに来所し、求職の申込みを行い、就職しようとする積極的な意思があり、いつでも就職できる能力があるにもかかわらず、本人やハローワークの努力によっても、職業に就くことができない
引用:ハローワークインターネットサービス「基本手当について」
具体的なタイミングは、失業の理由で異なるため、個別の確認が必要です。いずれの場合も、待機期間中(受給決定日から7日間)に開業届を提出すると失業保険を受給できません。詳しくは、ハローワークなどでご確認ください。
デメリット②確定申告をする必要がある
開業届を提出すると、1月頃に確定申告書類が届きます。個人事業主として登録されるためです。したがって、確定申告を行う必要があります。ただし、確定申告の必要性と開業届の提出に関係はありません。所定の条件を満たすと、開業届提出の有無にかかわらず確定申告を求められます。必要な確定申告を怠ると、ペナルティーを科されるため注意が必要です。
開業届の書き方
続いて、開業届の書き方を解説します。
具体的な項目
開業届の記載項目と基本的な書き方は以下のとおりです。
【記載項目】
- 納税地:「住所地」を選択して自宅の住所を記載します。
- 氏名・生年月日・個人番号:個人番号はマイナンバーです。
- 職業:美容師と記載します。
- 屋号:開業する美容室の店舗名を記載します。
- 届出区分:「開業」「新設」を選択します。
- 所得の種類:事業所得を選択します。
- 開業日・廃業日等:開業年月日を記載します。
- 開業・廃業に伴う届出書の提出の有無:当てはまるものを選択します。
- 事業の概要:事業内容を完結に記載します(美容室運営など)。
- 給与等の支払の状況:1人で運営する場合は空欄で構いません。
以上を参考に、記載を進めましょう。
提出枚数
手書きの開業届には「提出用」と「控え用」があります。これらをセットで提出して「控え用」を受け取っておくことが大切です。税務署へ持参する場合は、受領印を押印した「控え用」をその場で受け取れます。税務署へ郵送する場合は、返信用の切手と封筒を同封しておくと、1週間程度で受領印を押印した「控え用」が返送されます。「控え用」を紛失した場合は、所定の手続きを行えば再発行できます。
提出期限
開業届の提出期限は、事業を開始した日から1カ月以内です。提出期限が、土曜日・日曜日・祝日などの場合は、この翌日が提出期限になります。
出典:国税庁「A1-5 個人事業の開業届出・廃業届出等手続」
関連記事:美容室開業の基本的な流れと開業時に求められる各種届出
よくある疑問点
最後に、よくある疑問に回答します。
罰則について
開業届は、所得税法で提出を義務付けられています。
(開業等の届出)
第二百二十九条 居住者又は非居住者は、国内において新たに不動産所得、事業所得又は山林所得を生ずべき事業を開始し、又は当該事業に係る事務所、事業所その他これらに準ずるものを設け、若しくはこれらを移転し若しくは廃止した場合には、財務省令で定めるところにより、その旨その他必要な事項を記載した届出書を、その事実があつた日から一月以内に、税務署長に提出しなければならない。引用:e-GOV法令検索「昭和四十年法律第三十三号 所得税法」
しかし、提出しなかったことによる罰則は設けられていません。ただし、提出を怠ると青色申告を利用できないなどのデメリットがあります。罰則の有無にかかわらず、ルールに従い提出するほうがよいでしょう。
屋号のつけ方
屋号には、漢字・平仮名・片仮名・アルファベット・アラビア数字・一部の記号を使用できます。一方で、商標登録されている名称は使用できません。誤って使用すると、損害賠償請求などをされる恐れがあります。個人事業主の場合は、法人と勘違いされる恐れがある名称も使用できません。十分な情報収集を行ってから屋号を決定しましょう。
美容室のオープンにあわせて開業届を提出
ここでは、美容室をオープンする前に理解しておきたい開業届のポイントを解説しました。
開業届は、新たに事業を開始したときに行う手続きです。事業を開始した日から1カ月以内に納税地を管轄する税務署長へ提出しなければなりません。提出を怠っても処罰されませんが、青色申告を行えないため注意が必要です。税額が高くなってしまう恐れがあります。罰則はなくても提出が必要と考えて、準備を進めてみてはいかがでしょうか。
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